◆自分の音をどう聴く?『5秒ルール』が練習の質を左右する。 /0040

練習の最中、「あ!間違えた!」「テンポがずれた」「楽譜通りじゃなかった」などなど、何かの理由で吹き直すときがあると思います。さて、その瞬間パッとすぐやり直していませんか。次にどうやって吹くか決めていますか。変化を聴き分け、耳を養い、頭を使って、演奏する。こういう楽器との時間が、本来の「練習」という時間です。それをしないのは、上達の遠まわりをしているのと同じこと!

クラリネット宮前和美


レッスンでのリクエスト

 

「何か一音吹いて。」

 

そうリクエストされました。

3年前、私がアレクサンダー・テクニークを習い始めた、数回目のレッスン中の出来事でした。

普通、楽器の先生とのレッスン中に、一音だけただ吹いてというリクエストされることはほぼありませんが、ホルン奏者でアレクサンダー・テクニークの先生であるバジルさんとのレッスンで、こんな流れになりました。

突然に思えたこのリクエストでしたが、最終的には、今まで自分がどうやって上達の遠回りをしていたかということをはっきり気づかされることになりました。

 


 

耳の使い方への指摘

 

耳の使い方と言えば、「絶対音感・相対音感」、「聴音」、「音程の良し悪し」、「ハーモニー感」など、元々の才能、もしくは幼少からの教育で培った能力のことを多く指します。

それに対して、同じ耳の使い方の中でも、「自分の音をどう聴くか」、「自分の演奏をどう判断するか」、という自分の音に関しては、教育というより、楽器を続けながらいつの間にか自分流に確立していくもののように思います。

 

自分の演奏に対して、どこに焦点を当て、どんな耳で聴き分けているのか。

どんな風に自分の音を聴いて判断し、毎日の練習のアプローチをしていくのか。

 

先生・指導者にとっては、楽器の奏法や、音楽的アドバイスをするということが主な内容であるというレッスン文化の中があるため、耳が良いか悪いかは殆ど才能の域だと捉えられていて、生徒自身の耳の使い方は、自己管理・自己責任の範疇であり、それを教えたり指摘したりするという考えがあまりないように思います。

でもこのレッスンで耳の使い方に焦点を当てられたときは、指摘されるなんて思ってみなかった分、レッスンの常識や、指導する状況や、自分の音の聴き方、色々な側面から気づきや変化があり、過去長い間の自分のさらい方や考え方のターニングポイントの一つになりました。

 


レッスンでのやり取り

 

そのときレッスンで、「何か一音吹いて。」と言われた突然のリクエストに対して、何を吹こうか少し考えました。

指に振動がよく伝わってくる、クラリネットの低音ソの音を、この部屋での響きが満たされるようなフォルテで、ロングトーンしようと決めました。

グループレッスンで一緒にいる周りの人は、何が起こるのか興味深々で見ていて、たった一音の演奏だったけれど、少し緊張気味でソの音を吹きました。

 

「今の音、どうだった?」

と、聞かれました。

「思ったより管が鳴っていない感じがする。」

 

「じゃあ、次吹くとしたらどんな音を吹きたい?」

「今より柔らかくて響いた音が出したい。」

 

「もう一回吹いてみて。」

より響かすつもりで、息を積極的に使って、同じように数拍伸ばしました。

 

「どうだった?」

グループレッスンの周りで聴いていた人達は、吹いているときに、うんうん、と私の音を聴いて頷いていたのが視界に入っていました。

けれど、私は、「特に音は変化していない」、と自分の判断をそのまま伝えました。

 

「本当に、違いがなかった?」

「私にとって違いは全然ない。」

 

「では、周りの人は、聴いていてどうだった?」

響きが増した。より豊かな音だった。さっきより柔らかい。暖かな音が出ていた。色々な人が答えてくれました。

その感想は私にとって嬉しくなるものでしたが、自分の耳には、良い方へ変化しているようには思っていませんでした。

だから肯定的だったフィードバックに対して、「でも」、「だって」、「けれど」と、逆接の接続詞を使って受け入れるのを躊躇し、認めないようにしていました。

 

もう一度聞かれました。

 

「本当に、本当に、絶対に、ほんの少しの違いもないと思ってる?」

「ほとんどなかったと思う。」

 

「ほとんど、ってことは少しはあったってこと?」

「ほんの少しの、と言われたら、多少は……、変化していたかもしれない。」

 

「この部屋にいる、みんなに伝わるほど良くなってたみたいだけど?」

そう言われても、この期に及んでも変わっていないと言いたがる自分がいました。

 

でも今度は、見逃がしてくれませんでした。

 

 

「本当に?」

「絶対?」

「全く?」

「変化がなかった?」

「同じ音だった?」

 

 

誘導尋問のように追いつめられて(笑)、でも、バジルさんが「違いが聴き取れなかったはずはない」と、私を観察し見抜いていた通りでした。

 

 


変化を無視するその心は?

 

本当の本当のところ、プラスに変化があったのは、最初から意識の端の方で、間違いなく気づいていました。

けれど、変化を無視するその心には、

 

期待しているほどの量の変化が耳に届いていない。

こんな少しのよさは変化として認められない。

 

という信念があり、それによって判断の質を変え、受け入れや発言のブレーキを掛けていたからでした。

 

私の耳は、期待するほどの変化や、ある程度まで到達していない上達の変化に対しては、キャッチせず、切り捨てることに決めていたのです。

理想にしている音と今の私の音は、遠く離れていて程遠いから、大きな上達が見れるまではプラスの変化を認めるわけにはいかない。

今の音をOKと認めたら、現状で止まってしまう。

 


練習は将来の貯金?

 

加えて他の原因にも、行き当たりました。

 

音大の先生たちが若い頃にしていた練習の話の中で、

「毎日忙しくて十分な練習ができなくても、若い頃のロングトーンやスケールの貯金で、今の演奏の質を保っている。」

 

そんな話を何度か、複数の先生から聞いたことがありました。

だから、テクニックや質の維持の貯金を増やすために、私の今の練習がある。

そんな風に練習に対して考えていた部分もありました。

 

反復練習をし、若い頃でないと身につけられないテクニックを磨き、時間を掛けた分、自分の貯金になる。

貯蓄を目的にしていたので、現在の変化に焦点を当てる必要を感じていませんでした。

そうして、いつの間にか自分の音の変化に対しては、1mm単位ではなく、単位を変えて、大きな変化量がないと受け入れない耳の使い方になっていたのです。

 


変化を認めないブロックを外す

 

変化がないと自分が言い切った音は、まだ耳に残っていました。

初めに吹いた音と、その後吹いた音を、それぞれ思い出して、プラスの変化を切り捨てていた自分のブロックを思い切って外し、焦点の当て方を変えてみました。

そのときに見過ごされた違いが、パーっと湧き上がるように浮き出て、聴こうとすれば違いがこんなにあるのかということにも、どれだけ自分の耳の使い方を鈍感にしていた自分だったのかにも、驚きました。

 

今まで信念のように絶対に正しいと思い、上達のために必要な厳しさだと思っていた、プラスの変化を切り捨てる「自分の音の聴き方」。

もしかしたら、片寄った耳の使い方なのかもしれない、今までの聴き方が間違っているのかもしれない、その変化こそが上達のヒントだったのかもしれない、とはじめて疑いが出てきた瞬間でもありました。

 

プラスの変化が起こったとき必要以上に認めまいとすることも、マイナスの変化が起こったとき必要以上にダメ出しをすることもないんだ。

 


変化の最先端

 

このレッスンが始まりでしたが、バジルさん以外のアレクサンダー・テクニークの先生複数人から、何度もその大切さが語られるのを聞きました。

 

「今の小さな変化に気づき、きちんと自覚し、認めること。」

 

アレクサンダー・テクニークは、過ぎ去った過去でもなく、まだ起こっていない未来でもなく、今をクリエイティブにしていきます。

目的地を知っていながら、足元の1mmの変化を、必ず起こし、何度も積み重ね、毎日続け、一週間、一ヶ月、一年経ていく。

 

そして、自分が歩んでいる今をしっかり見つめ、いつか後ろを振り返ったときに、元いた場所がいつの間にか遠くに見えるようになっていくのです。

 


 変化を見逃さないようにするための、具体的な方法とは?

 

練習の最中、「あ!間違えた!」、「テンポがずれた」、「楽譜通りじゃなかった」、「もっと表現したい」などなど、何かの理由で何度かやり直すときがあると思います。

さて、その次に吹き出すとき、もしかしたらすぐパッとやり直していませんか。

 

でも、

いま起こった僅かな変化に気づくだけの時間

その変化が見え隠れしたときに、どんな違いがあったのか分析する時間

そして、次に吹き直すとき、どんな意図を持って吹くのかを決める時間

が練習には必要です。

 

1秒も経たない僅かな時間でも、これを全て満たして、建設的な練習が積み重ねられればいいのですが、パッとやり直してしまうときには、それを確実に満たしていたとは言いがたいのではないでしょうか。

数打つ反復練習の回数によってクオリティーを上げようとする練習の質から、絶対に上達のヒントを見逃さないよう、ほんの数秒間あけて、自分の音を注意深く聴き、判断する時間がある練習にシフトチェンジをしてみる。

 

自分の音を聴く時間をつくる、『5秒ルール』。

 

そうやって、変化の最先端で起こる違いを聴きとれる耳を養い、その環境を作り、何度も変化を起こす。

こういう楽器との時間が、本来の「練習」という時間です。

 

変化の最先端は、上達のヒントがたくさん詰まっています。

 

私自身も、楽器の練習に限らず、「今の小さな変化に気づき、きちんと自覚し、認めること。」を見逃していたり、気づかなかったふりをすることがあります。でもそれが上達や変化のステップを進む遠回りになってしまう。

是非、それを無視せず、『5秒ルール』で練習してみましょう!

 

クラリネット宮前和美

 


 

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(セミナー主催者である杉村さんのブログ。)

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1 Comment on ◆自分の音をどう聴く?『5秒ルール』が練習の質を左右する。 /0040

  1. 「あ!間違えた!」と直ぐにイライラ吹き直すのを「間違える練習をしてる!」と指摘されたことがあります。なるほど最悪のやり直しだ、一息ついて、気分を整えてゆったりともう一度、の心がけが必要だと知りました。が、そのときに、直前に自分がしたことをもっとクリアに振り返って見るべきなのですね。そうした方が、次をする気持ちが積極的なものになり、からだもそれに従い、息をほっとよく吹き出せるように感じます。
    うまくいかないときの振る舞いで強い感銘を受けた経験があります。ここへ投稿するのはこじつけ気味ですが、書いてみます。間違える練習をしていた頃、田舎の小さい会場で、ルース・スレンチェンスカさんの演奏を聴くチャンスがありました。その日はブラームスの小品でしたが、80歳を過ぎ、リューマチを患った彼女が、思うに任せないところでしばらく鍵盤の手を止め、それから「yes」と一言だけ独言してもう一度弾かれる場面がありました。「yes」の声は静かで力強く、疑いなく自分に向けてのことばでした。ルースさんが何を考えたのかはもちろんわかりませんが、その振る舞いには誇りが感じられ、再開された演奏の素晴らしさと相まって、聴衆を勇気づける力をがありました。壮年の流麗な名人芸とは違うこのときのルースさんにしかできない演奏でした。大切な経験だとおもっております。
    この日の録音はCDになって世に出ています。聴かれる機会があれば、この主観的すぎる経験談も少しはご理解いただけるのではないかとおもいます。

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