◆どうやってアレクサンダー・テクニークで、あがり症を乗り越える? /0003

私にとって、あがり症は、中3の頃から切っても切れない悪友のような存在です。そんなあがり症と、どうやったら上手く付き合えるのか、この一年半、ずっとその答えを求めてアレクサンダーの先生達に、レッスンを受け、何度も質問をしてきました。「どうしたらアレクサンダー・テクニークを使って、あがり症を乗り越えられるの?」。レッスンで得たヒントにしていることは沢山ありますが、勝負所となるだろうことが最近分かってきました。敵を知り、己を知り、作戦を立てる。ただ音楽に向き合って本番を過ごせるよう、アレクサンダー・テクニークを味方につけて、あがり症に勝負を挑みます!

クラリネット宮前和美


悪友のあがり症との付き合い

 

私にとって、あがり症は、縁を切りたいのに切れずにきた、ずっと前からの悪友のような存在です。

あがり症が怖くない!と思える時と、何とかやり過ごせる時、また今日もきつかった…と落ち込む時と、全く存在感なかったなぁと思う時、そして徹底的に怖い思いをさせられる時など、本番ごとに関係性が変化します。

大きな本番ほど、関係が良好なことは稀です。

普段と違う身体感覚が起こっていて緊張している自分の状態でも、集中力があって音楽が生み出す流れに乗れるパフォーマンスが存在するのに、ネガティブな思考や人の評価を気にし、パフォーマンスを落とし、一番そうやって吹きたくないと思うところで、音楽と向き合えていない状態になるときもあり、後者の方は確実に自己嫌悪に陥ります。

どうやって、アレクサンダー・テクニークを携え、毎回の本番に向かって行ったら、あがり症が乗り越えられるのでしょうか?

この一年半ずっと見てもらっている先生、海外から来日する先生達に(数えるともう20名以上のアレクサンダー・テクニークの先生達にレッスンを受けていました!)何度も何度も、同じ質問を、言葉を変え、手を変え品を変え、色々な角度からずっと答えを求めてきました。

書いてみて、まだまだ書き足りていない、勝負に有効であるヒントにしていることが沢山ありますが、一番の勝負所となるだろうと思う、今の自分のまとめをしようと思っています。

 


意図した通りに身体が反応する

 

人それぞれ「あがり症」や「緊張」の現れ方や感じ方があり、何がその人をそうさせていて、何が対処法になるのかは違いますが、その時起こっている緊張は、自分の考えの外で意図せず起こっているのではなく、実は自分が意図した通り、いつも正しく身体は正直に反応しています。

その本番に何を思って、何を信念にしているのか、心の底にある考えや思考が、誤魔化されず、嘘偽りなくそのまま身体への反応となって表れています。

アレクサンダー・テクニークに「心身統一体」という考えがあり、思考と身体は同一・同義で、分けては考えられないと言います。

タンギングが早くできないのは、舌の機能が悪いのではなく、自分が舌にさせている考えや使い方が、タンギングの質を落として使いにくくさせている、という例が分かりやすいかもしれません。

あがり症の場合は、その状態をやめたい、緊張をなくしたいと、頭の中の思考の表層すぐにその考えがあっても、意識的にすぐ言葉にできることより、心と身体のずっと奥深くで求めていることが、その緊張といわれる身体感覚を生み出し、二重のトリックのように思考と身体が結びついていることが、私のあがり症の場面には多いと経験しています。

いつでも身体は自分が意図した通りに反応しています。

アレクサンダー・テクニークの前に、身体も心も変化を起こしているのは、自分の中にある「化学物質」がそうさせているという観点から、まずあがり症の理解を進めてみたいと思います。

 


あがり症の理解の入り口

 

まず、「化学物質」とは、自分の中で分泌されるホルモンのことです。

ホルモンと言われて、私は、女性ホルモン、男性ホルモン、あとはアドレナリンとか、ドーパミンとかホルモンだっけ?という位の知識しかありませんでしたが、緊張以外でも、人の行動や、やる気、恋愛感情、睡眠、生理現象を含め、その反応を起こしているのは、殆どホルモンの働きだと言っても過言ではないのだと知りました。

例えば、緊張でいうと、心拍数の増加、指や膝や唇など身体の震え、発汗、手先の冷たさ、身体の固さ、呼吸の変化、落ち着きのなさ、身体感覚や生理現象に対しての敏感さ、などなど、全てホルモンの分泌によってコントロールされています。

(種類としては、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、テストステロンなどです。)

今から本番!勝負!というスイッチが入ると、ドキドキ、ブルブル、ガクガク、ダラダラ、ガチガチ、ソワソワ、イライラ、ヒヤヒヤ、ピリピリ、クラクラ。

何が起きているのか想像できるでしょうか。

その身体言語を、分かるように翻訳すると、これから身体が良く動くように、血液を四肢に巡らせ(ドキドキ)、筋肉が俊敏に瞬時に反応できるようにして(ブルブル)、体を活性化するため体温を上げ(ダラダラ)、もしくは大切な脳に血液を集め、いざという時には体を危険から守れるように(ガチガチ)、様々なことに対して注意力が増し(ピリピリ)、その結果トイレに行きたくなったり(ソワソワ)、繊細に違いを感じてリードが全然鳴らないように思ったり(ヒヤヒヤ)、神経がかなり鋭く敏感になっていきます。

擬音語はあたかもネガティブな表現のようですが、こうやって書き出すと、身体は正当なことをやろうとしていると思いませんか。

これから未知なことが起こるという状況、特別なことをやろうとする指令、いつもと全く違う環境を過ごす時間、それに対応できるように、身体は必要なホルモンを分泌させて、身体に行き渡らせ、その通りに身体は反応しているのです。

その中で、不必要なものはあるでしょうか。

 

全くありません。

全部指示通りに身体が反応してくれたことであり、本番に不可欠なことが多く含まれます。

でも緊張と言われる自分の体の反応の中で、楽器演奏に悪影響を及ぼすもの、もしくはそこまで過剰な反応が必要ないと思うこと(私にとって圧倒的に指の震えです)、違った反応が起こればいいと願うことはあります。

ですがまずは、この反応は適正で起こるべくして起こっていることだと司令塔(自分)が受け入れ、反応があっていいものと認める、という考えの変化が、あがり症への理解の入り口です。

 


あがり症、作戦その1

 

さて、ホルモンに影響されているあがり症ですが、あるホルモンに焦点を当て、作戦を一つ立てたいと思います。

「テストステロン」

このホルモンは、分泌されると、男性性が強くなり、リーダーシップが取れ、堂々としていて、決断力があり、自信に満ちて、闘争意欲があり、自己主張をしっかりとする、そんな行動を人にとらせる働きがあります。

あがり症の身からすると、本番にこんな状態で吹けたら、どんなに楽で、理想的だろうと思います。

緊張が始まった時、是非とも良く働いてもらいたいホルモンです。

 

実は自分でこのテストステロンをコントロールする方法があります。

ホルモンが出ているからそうなるのか、そうなる時にテストステロンはたくさん分泌されていくのか、卵が先かニワトリが先かという話と似ていると思いましたが、ホルモンを出してこの行動を促進させるために、先に結果起こる行動や状態を身体に取らせれば、ホルモンがそれに付随し分泌されるらしいのです。

男性らしさでもある、身体を大きく見せる姿勢、堂々としたボディーランゲージ、雰囲気、しぐさなど、表面積をできるだけ大きくして、自分の身体をわざとそうさせて動かしてみる。

ただ、2~3分の間だけでホルモンに変化が出るらしく、「バンザーイ!」というように手を大の字のように広げたなポーズや、「よっしゃー!」「やったー!」という勝ったときによく見る両腕を上に向けてのガッツポーズや、腰に手を当てて「えっへん」というような胸を張ったポーズが、テストステロンの分泌を促進させ、あがり症ではない行動を自分に取らせる一つの方法です。

2~3分そんなポーズをキープできる、本番前のトイレ、(一人になれる)控室・舞台袖、などで試してみます。

それだけで影響を受け、分泌量が違ってくるくらい、密接に身体の動きとホルモン分泌は関係します。

確かに不安で緊張しているときは、自分が小さくなり縮こまる方にいき、テストステロンが出ていない状態になっていると思います。

 

前回書いたアレクサンダー・テクニークにおける「頭と脊椎の関係性」とも関連し、身体を小さくし頭を固め脊椎が動けない状態だとパフォーマンスに悪影響が出てくるのですが、それがホルモンにも関係するかもしれないという仮説も立てられ、かなり興味深いと思いました。

実際にそのポーズをやった方がいいと思いますが、そのポーズを取ろうと想像しただけでも筋肉は反応するので、(頭の中でやろうと意図すると、その動きを起こさなくても神経系では反応が起こっています。スポーツの世界では、競技前に頭の中でイメージトレーニングやシュミレーションをし、それによって筋肉の神経の準備を結果することにも繋がっているのだと思います。)本番中吹いている時でも、パワーポーズを想像するだけで、違うという感覚がありました。

私にとっては面白い重要なアイディアです。

 


自分が舞台に立つ理由が、決め手になる (作戦その2)

 

ホルモンの反応は理解したものの、分泌しすぎている過度な反応を、もう少し適度にできないのかと、やはり考えは発展します。

そのためには、司令塔である脳(思考)を変化させることです。

自分の楽器演奏に対して思っていること、本番へのモチベーション、演奏の仕上がり、他人の評価などにより、存在を脅かされるような感覚や、自分の存在意義などが問われるような、怖さや危機的状況という判断をしてしまいます。

そんな時は、動物の進化の生存過程で、正に生き残るために必要であったであろう、自分を守ることや、戦うことや、逃げることと同じ危機感を、演奏や本番に対しても同じように捉えてしまい、ホルモンはそれに対して必要なだけ、反応をし続けます。

だから、思考自体のアプローチとして、

私はここで、なぜ音楽を自分がやるのか、なぜ楽器をやっているのか、と真正面から問いたいと思います。

上辺でない、誤魔化しのない、心の底から納得し、堂々と言える、自分が舞台に立つ理由

それが一番決め手になる重要なことだと思います。

 

私のあがり症の敗因は、そこが時に漠然とし、すぐ他者からの影響を受け、価値観・価値基準を他者に譲り渡し、自己肯定のバランスを崩してしまうような、人から借りてきた言葉による、誰からも認めてもらえる優等生的な答えを、いつの間にか用意していたからだと、アレクサンダー・テクニークを学び気づきました。

自分は、なぜ楽器を演奏するのか?

自分は、なぜ音楽をするのか?

自分は、なぜ舞台に立つのか?

一般的にとか、他者が、とかではなく、自分がそうしたいと思う理由です。

人類誕生から続く生存競争の中で、ずっと最優先されてきた生存に関わる本能的な反応に対して、勝負を 挑むようなことでもあるから、それに対峙できるくらいの、揺らがない絶対の答えがあること

でも変化が起こらない頑ななものではなく、今後進化していく可能性もある、でも、今その時の自分にとって確固たる絶対の理由。

テンションが上がり、心が動き始め、エキサイトで、エネルギーが湧いて、目が生き生きとして、体に張りが出て、こうしたい!と思えること。

 

はっきりして、揺るぎないものであれば、そこへ引っ張られて向かっていきます。

絶対に自分が成し遂げたいと、そうしたいと思える望みが必要、そうアレクサンダーのストーリーも教えてくれます。

声が出なくなっても、またシェイクスピアの朗唱を舞台でやりたい、その情熱によって再び声を出せる方法を見つけることになりました。

 


実験

 

緊張を出さないように無くそうとすることではなく、何をやるべきか、何をやりたいかに向かった方がいいといいう理由は、『否定形は脳が理解しにくい』からでもあります。

それを脳が教えてくれる、面白い現象があります。

 

「ミッキーのキャラクターの顔を、鮮明に頭の中に思い浮かべてみてください。」

耳が大きくて、靴が黄色い、笑ったミッキーが頭の中にいますか?

その次に、「その思い浮かべたミッキーの顔を、思い出さないようにしてください。」

 

さあ、消えたでしょうか。たった今思い浮かべているミッキーをどうやって頭の中から消せばいいでしょうか。

おそらく鮮明にミッキーが頭の中に浮かんだまま、消えてはくれません。

 

だからその代わりに、「ドナルドダックの顔を思い出してみよう。」

青い帽子を被った、くちばしが黄色い、特徴的な声の、ドナルドダックが頭に浮かんだでしょうか。

とすると、さっきまで頭の中に占めていたミッキーは全く存在しておらず、ドナルドダックの顔だけが頭に浮かんでしまいました。

 


否定形をひっくり返そう(作戦その3)

 

『否定形は脳が理解しにくい』、それは、脳が否定形の指令は後回しにして、まずやめたいことを一番初めに考えて、次に否定しようとするようにできているからだと学びました。

だからミッキーを消したいのに、ミッキーを一番始めに頭に思い浮かべてしまい、消すのが難しくなったのです。

物事や習慣を否定して、禁止する方法は、本当にやりたいことに対して遠回りになります。

人の成長が一番大きい時期を過ごす学校生活では、禁止されることで規律が守られて成り立っていたし、自律・謙虚・謙遜する日本人気質からくるのか、音楽の土壌でも何かを伸ばすより、何がいけないかという否定やダメだしが多いと思われます。

でも、否定形もすぐ肯定系にひっくり返すことができます。

 (吹奏楽部の楽譜書き込みあるあるの例より)

・早くならない  →  落ち着いて吹こう。テンポを感じていよう。
・音を外さない  →  音やリズムをソルフェージュしよう。頭の中で音を鳴らそう。
・遅れない  →  音楽の流れに乗って吹こう。打楽器を聞こう。
・リードミスしない  →  音を思い浮かべよう。アンブシュアを早くセッティングしておこう。
・音がきれない  →  音楽の流れに乗ろう。息を保って歌って吹こう。
・下を向かない  →  目線を上げよう。顎の下のスペースを感じよう。

などなど。

物は言いようで、否定形もすぐ肯定系に言いかえが可能なんだと、中高生時代の自分に知恵を授けて、何しちゃダメと言うより、こうしよう、と思った方が何をすればいいのか分かりやすいし、進む方向が明確だし、健全で前向きでしょ?と、中学高校時代の自分に教えてあげたかったと思っています。

『やめたいこと、必要ないこと、習慣を変えたいと思ったときに、否定するよりも、何か違ったことを考えたり、新しいことをしたりする』、その方が上手く行きます。

 


習慣の根強さ

 

習慣の根深さは、通りなれた道路のようなもので、車で同じ場所へ向かい、毎日同じ道路を通っていると、ある日違う目的地へ向かった時、本当だったら曲がるべきところを曲がり損ねたり、いつもの右折車線に入ってしまっていたり、同じ道に一度入ってしまうと、いつも通りなことをやってしまいがちだという実体験は、運転以外でも誰しもあるのではないでしょうか。

その時には、習慣と一緒に、いつもの渋滞・信号多さ・見通しが悪い場所、そんなデメリットも一緒についてきてしまいます。

脳は省エネするのが上手く、繰り返されたり慣れたりしたことに対しては、どんどんエネルギーを使わないように対処し、シナプスが自動的に繋がりそこを通ろうとするので、習慣や癖はとても強力です。

決まりきったルート、考えなくても習慣になっている手順などは便利ではありますが、無意識のレベルまで、すっかり新しいものに変えたい・変えようと思った時、構築したその時間が長ければその分、変化を起こすための時間がかかり、別の新しいことを習慣にするまでに、労力やエネルギーはより多く必要になるかもしれません。

私は20年以上かけて、あがり症のルートを、より強固にしていました。

ですが、全く違う道から行ったら、違う景色や交通状況で進めます。

あがり症に対しては、世の中に色々なヒントがあり、数多くの目的地へ行く(演奏する・音楽する)ルートが存在しますが、アレクサンダー・テクニークで学んだプロセスから考えると、一番走りやすく安全で建設的な最短距離で進める広々とした道になり得ると思うのは、望みが明確でそこに向かっている、これが最重要なことだと思います。

 


いつもと同じ一歩を踏み出しそうな時、今までと違う一歩を踏み出す

 

「いつもと同じ一歩を踏み出しそうな時、今までと違う一歩を踏み出す」、私にとってあがり症へのアプローチの焦点になる、アレクサンダー・テクニークの原理は、「抑制(インヒビション)」という過程のことです。

いつもと同じように悪い緊張で演奏してしまいそうな自分から、音楽に向き合い、ありのままの自分で楽器を演奏する自分に方向転換すること。

「抑制」という言葉からは、制限され、抑え込まれ、我慢し、欲求が満たされないようなニュアンスがありますが、アレクサンダー・テクニークで使う「抑制」は、意識的にやめたり、やろうとしてやらずにいたり、時間を取ったり、別のことを始めたりすることを指します。

その色々な「抑制」の方法の中でも、

【意識的にやめる】(今までやっていたことを禁止する、否定形の指示)

よりも、

【新しいことをする】(そもそも古い習慣が起こらない、新しい習慣を作る)

その方が有効だと、ボディーチャンス・メソッド(私が通う学校BodyChanceでの学び)で理解しています。

そして

【選択前に一瞬ストップする】

ことは、古い習慣に行くか、新しい習慣に行くか、その一瞬を見逃さずストップして改めて選択する、意思決定をするときに有効です。

 


さあ、本番!その時に。

 

「さあ、本番!」と思ったとき、すぐ楽器を手に持ったり、リードを選んだり、音出ししたりしないで、

「もうすぐ大きなソロが来る!」と考え始めたとき、指が震えたらどうしようと思ったり、どう自分の音が聴かれるだろうと危機感を持ったりしてしまうその瞬間に、

改めて「私は今何をしにいくか、何をするためで、何をしたいのか」、一瞬の時間を取って、問いかけをして、先のことではなく、改めて今の自分に心を戻して、その瞬間の音楽の流れに乗り、準備を始め、本番や演奏に向かいたいと思います。

〜しなきゃ、~すべき、~でないとダメ、~なんかじゃダメ、ああ、そんなことを本番で思うこともあったよね、と懐かしく思えるくらい、音楽の素晴らしさを感じながら、常に楽器を吹いていたい。

一歩一歩が僅かでも、今までと違う一歩を踏み出そう。

 打倒!あがり症!

アレクサンダー・テクニークを味方につけて、勝負を挑む!!

 


 

レッスンを受けてみませんか?
詳しくはこちらをクリック♪

 

 

無料メルマガを登録できます♪
こちらからどうぞ!

Be the first to comment

Leave a Reply

Your email address will not be published.