
アレクサンダー・テクニークの原理の一つに、『ディレクション(方向性)』というものがあります。何を、どうやって、考えて演奏するのかという、アレクサンダー・テクニークからみた考えです。楽器を吹くために、絶対になくてはならない、3つのプランと、「そうすべき」より「そうしよう」という考えの効果。上達のヒントがあります。
クラリネット宮前和美
楽器を吹くとき、何を考えて吹くのか。
アレクサンダー・テクニークの中での専門用語で、「ディレクション(方向性)」と言います。
アレクサンダー・テクニークの専門書を読んだとき、大抵どの本の中にも、ディレクション・方向性という話が出てくるのですが、そのカタカナ語も、直訳も意味が通じにくく、名作と言われる外国の本を読んでいても、今ひとつ入り込めない違和感と似ていて、内容の理解はできても、すんなり納得とは言い難い、アレクサンダー・テクニークの原理の一つでした。
元々がF.M.アレクサンダーという外国人(オーストラリア人) の方法論なので、アレクサンダー・テクニークが、いくらわかりやすく訳してあっても、日本の先生が原理について書いていても、そのまま考えを日本に持ち込むと、本当の意味での理解に至りにくい、肌に合わないという感じです。
例えば、外国の料理を本場の味のままではなく、日本人の舌に合うよう調理するのと同じように、自分の専門(管楽器演奏)に置き換えて、自分にとって分かりやすく役立つように、アレクサンダー・テクニークの専門用語も、意訳して使いたいと思っています。
なので、アレクサンダー・テクニークの『ディレクション』とは、楽器を吹くとき、何を考えて吹くのか、ということだと、私なりに定義してみました。
楽器を吹くために、絶対なくてはならない、3つのプランと共にあります。
演奏者に必要な、3つのプラン
①【アレクサンダー・プラン】
アレクサンダー・テクニークの原理である、頭と脊椎の関係性についての言葉
②【動きのプラン】
どう体を使うかという、奏法(アンブシュアなど)や演奏の動きに関わる言葉
③【音楽のプラン】
どう演奏するか、どう表現するか、楽譜の中身や演奏スタイルなど音楽に関わる言葉
楽器を吹くとき、この3つは絶対に外せません。
こうやって並ぶと難しく見えますが、考える時は、たった数秒です。
例えばある日の私のディレクションは、
「頭が動けるようにして、体が全部ついてきて、①
顎関節の可動性そのままに、口を開け、②
リードが自分に最短距離で近づいてきて、②
口に入ってから、アンブシュアを作り、②
肋骨が脊椎の部分でスイングし、必要なだけ息を吸い、②
この音楽が求めているように、軽いキレのいい音で、楽器を吹く。③」
というような計画。
自分に指示や指令を出すタイミングや、内容も様々で、時と場合によって、全く違うものに焦点をあてたり、もっと細かい意図で指令を出したりもします。
レッスンを受ける意味
アレクサンダー・テクニークだからということではなく、楽器を吹くときには、誰でも何らかの考えを持っていると思いますが、独自のやり方で吹き続けるより、もっと効果があるのは、専門家から、自分に合った、自分のための、アドバイスを直接受けることです。
『ディレクション』における3つのプランの、それぞれの専門家とは、
【アレクサンダー・プラン】と、【動きのプラン】の一部に関しては、アレクサンダー・テクニークの先生。
【動きのプラン】の一部と、【音楽のプラン】は、楽器の先生や、楽器演奏や音楽を教えてくれる人・もの・環境や 、音楽を知っているアレクサンダーの先生です。
レッスンを受ける必要・効果・意味は大きいものですが、ここまでは、誰でも時間とお金と、少しの手間やエネルギーなどで、簡単に実現可能になると思います。
ですが、それで終わりではありません。
本当に効果が出るのは、そのレッスン後、先生から教えてもらったアイディア・プラン案・思考をどうするか。
自分の言葉に意訳する
レッスン直後は、自分の代わりに先生が作ってくれた、プランや言葉・アドバイスなので、自分を主語にして使った時に、まだそれ以上の効力の可能性があるという意味では、未完成と言えるかもしれません。
同じ内容、同じ言葉、同じ意図で楽器を吹くことになっても、自分なりに咀嚼し、自発的な状態になったときに、最大限効力が発揮されると思っています。
クラリネットの生徒さんのレッスンをしていて実感しているのですが、アドバイスしてパッと良くなっても、そのプランを思い出すこと、継続することは、生徒さんの意思次第です。
レッスン中は、横でずっと先生が、こうだよ、こうだよと、リマインダーになってあげられますが、その場所を離れて、自宅や練習場所に戻ってもそれができるかは、そのときもらったアドバイスや代替プランが、自分なりの言葉ですぐ言えるようになっていて、継続しようとしない限りは、その場で終わってしまいます。
「家に帰るとできなくなった」「自分でするとできている気がしない」「これで合っているか分からない」「先生が側にいればできるのに」、それは、自分で理解の咀嚼が終わっていなくて、自分の言葉が出来上がっていないから。
だから、いつも一番自分に効くものを、追及していくこと。
いくつかのアドバイスが重なったとき、始めに考えたことを忘れることはよく起こります。
でも「今までどうしたら良くなって、どうやって理解した?」と、一回生徒さん自身の言葉にしてから吹いてもらうと、前以上のいい変化が出ることが多くあるし、記憶に確実に残りやすくなります。
先生の原語でも、直訳でも、翻訳でもなく、自分の言葉で意訳をして使うことに、大きな違いがあります。
そうしよう!の効果で、もっと上手くなる
そして最後に、ディレクションを最大限有効にするのは、楽器を吹くということが、今、自分の中でどんな存在なのかということ。
レッスンを受けるのは、教えを請うという部分は受け身ですが、レッスン自体は自主性の中にある、一部分です。
そうしたいという望みがあるときに、自分の意思を持って計画を作り、自分に合った使い方で、たくさんのプランを用意し、その中でアドバイスを受け、選んだ計画を実行しようと、繰り返し頻繁にプランを使うこと。
楽器を吹くのは、そうすべき?そうしなきゃ?そうじゃなきゃだめ?できないから?だめだから?、なの?
義務、禁止、命令、そう心の奥で無意識のうちに言いながら、楽器を吹くことは、楽器に真剣ならよく起こりがちです。
でも、ボディーチャンス・メソッド(私のアレクサンダー・テクニークの学校の考え)で、望みが大きなエネルギーとなると学び、実感しています。
自発的に、自分が決めた、「そうしたい!」「そうしよう!」「そうするんだ!」に、ディレクション(3つのプラン)をもっと有効にする、想像する以上の大きな効果があります。
クラリネット宮前和美
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