「音楽を表現する、道具として、私はクラリネットを吹いている。」バジルさんのレッスンで、改めて実感したことです。あたかも楽器の眼鏡をかけて、その狭い視野の中で、楽譜を見ているようでした。音楽は、そのフレームの周りに広く存在しているのに、クラリネット眼鏡をかけると、あっという間に見えなくなり、逆に、向き合う目の前の楽譜から、楽器の制約という眼鏡を外してみると、本来どういう流れや性質があるのかが、急にクリアに見えてきました。
クラリネット宮前和美
こんな楽譜を見たら、どう思うでしょうか。
♩=152で、H-durの変形、オクターブのスケールの上向型、下向型が、16分音符で並んで、スラーがついておらず(つまり全部タンギング)、ページいっぱい埋め尽くされている譜面。
「弦楽器じゃあるまいし、ブレスのことも考えられてないし、この作曲家、管楽器を分かってないな。」
「タンギングなの?!スラーが落ちてるんじゃなくって?」
「この早さでタンギングなら、ダブルでやるしかない。」
「よりによって、やりにくい運指と音域!」
「楽譜通り、連続して、正確に吹けるように、リハまで仕上げていかないと。」
「吹き通すには、テンポも、連続した音型も多分限界ギリギリだから、口も舌もスタミナ付けなきゃ。」
無謀な楽譜を見て、こんな風に考え、出来る限りの方法でさらっていました。
サポートを得る
1人であの手この手を尽くし、自分の能力ギリギリのラインで練習していましたが、BodyChanceのアレクサンダー・テクニークの先生であるホルン奏者のバジルさんのレッスンで、相談してみました。
「こんなひどい譜面なんですけれど(怒)、どうしたらタンギングがもっと早く楽に、安定した技術でできるようになりますか?」
そんなニュアンスとスタンスで、レッスンに持ち込んだと思います(笑)。
それに対して、アレクサンダー・テクニークのアプローチ、色々な考え方、体の使い方のアドバイスをもらい、徐々に演奏は変化していきました。
「でも、ちょっと待って、この音符がこんなに早く、細かく、並んで連続していると、音楽の流れってどうなる?スピード感は?上向音型と下向音型の繋がりは、イチニサンシと4拍子で取るんじゃなくて、大きく二つ振りにした方が音楽の流れとして自然だよね。」
「だとしたら、こんなスピード感になって、タンギングもこんな感じでしょ。」と、口だけで歌ってみると、自然に音楽が表れました。
さあ、ここからクラリネットという楽器に登場してもらって、それを実現するなら、どういう技術が必要になる?
クラリネット眼鏡をはずしてみたら
向き合う目の前の楽譜から、楽器の制約を外してみると、本来どういう流れや性質があるのか急にクリアに見えてきました。
こんなスピード感、疾走感がこの楽譜に隠れていたんだ!
自分の楽器から出る音も、ダブルタンギングのテクニックも、ガラッと変わり、完璧にこなすのは不可能だと思っていたことが、安定して、楽に?!、しかももっと音楽が生き生きとして、演奏可能になってしまいました。
クラリネットの技術の前で、難易度が高いと思いながら読み取っていた、楽譜の中の音符の在り方が、全然違うように自分の中に現われたのに、本当に驚きました。
色眼鏡ならぬ、クラリネット眼鏡から眺めるその楽譜は、楽器を知っているからこその、技術の判断や、難易度が高いところへの対処法など、偏った見方をしていて本来の音楽が見えなくなっていたのです。
そんなクラリネット眼鏡を、まさか自分が掛けていたなんて!
楽器のテクニックは手段
今目の前の物事を、どんな目で見ているか。
ある価値観だけで見たり判断したりすることは、音楽以外のことでも多々ありそうです。
視野を広く、色々な角度から見れるようにしないと、大切なことを見落としてしまう。
楽器眼鏡のフレームの外に音楽がある。
楽器のテクニックは、演奏操作に制約されず音楽に向き合う、その為のものであり、演奏や音楽の手段としてのクラリネットなのだと再認識しました。
アレクサンダー・テクニークの先生である前に、音楽の世界にいるからこそ、眼鏡に気づき、外してもらい、見える世界がガラッと変わった体験でした。
印象的な忘れられないレッスンの一つです。
【忘れられないレッスンシリーズ】
1、◆アンサンブルが乱れたら、「2」だけ多く自分を褒めること。/0009
2、◆多くの音楽家が教わってこない、パフォーマンスのこと /0004
3、◆緊張しに行くんじゃない。「好きなことをしに行くだけだよ。」 /0010
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