「楽器を吹くときに、アレクサンダー・テクニークで何をやっているの?」そんな疑問を持ったことはありませんか。アレクサンダー・テクニークを学び始めた頃の私にとって、一番大きな疑問でもありました。その人それぞれで、アレクサンダー・テクニークは何かと定義する言葉は変わってきますが、今の私なりの説明です♪
クラリネット宮前和美
「アレクサンダー・テクニーク」
私がこの名前を知ったのはいつのことだったでしょうか。
『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』
というバーバラ・コナブルの本と出会ったのが最初であったように思います。
吹奏楽部で楽器を始めてから、クラリネットを専門的に学んでいくなかで、やはり腹式呼吸のこと、腹筋のこと、アンブシュアのこと、指のことなどは必ず意識したり研究したりすることになると思いますが、先生から言われる奏法や体の使い方、クラリネット以外も含めいろいろな楽器の教則本を読みながら、自分なりに解釈して楽器を吹いていました。
そんなときに、たまたま楽器屋さんでこの本を読んだのだと思います。
それから何度かアレクサンダー・テクニークという名前を聞く機会があったけれど、一年半前にワークショップを受けに行き、直接アレクサンダー・テクニークの世界を知ることになりました。
フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(Frederick Matthias Alexander, 1869年 – 1955年)
(アレクサンダー・テクニークの場合、テクニックと言わず、テクニークと使うのは、初めて訳したときにそうやって日本語にしたからです。なのでそれに準じてアレクサンダー・テクニークのときだけテクニークと書き分けます。アレクサンダー・テクニークは長いので、略してATと記載することがあります。そして、私が通っている学校(BodyChance)ではこのアレクサンダー・テクニークを元に発展させて楽器に生かしているので、ボディーチャンス・メソッドという使い方もします。)
俳優であるF.M.アレクサンダーというオーストラリア人が、朗誦中に声が出なくなってしまい、その問題を解決していく中で起こったこと、「頭と脊椎の関係性」について発見したこと、そこに至ったその過程を、知識で知るだけではなく、体験して動きに生かしていくことが、アレクサンダー・テクニークの主な学びとレッスンの中身です。
誰にでも恩恵がある役立つもの
ホルンをやっている人にとっては、アレキサンダー(アレクサンダーではなく)という楽器メーカーがあるので、あの名器を操るテクニックだと思ってしまうこともあるらしいですが、私は、誰かが発明した方法論みたいなものだろうと思っていましたし、実際にレッスンを受けてみようと思った時は、音楽家でもない俳優が考えたことが、楽器を吹くことに結びつき役立つのか、私にとってはそれほど関係がなく、ただ楽器演奏やあがり症に本当に役立てられれば何でもよかった、というのが本音です。
でも内容を知っていくにつれ、舞台という芸術に携わる人が、その俳優生命を掛け、どうしても俳優という職業を諦められないという情熱や、声が出ないという致命的な問題を乗り越えた執念に触れ、その上達へのこだわっていることは自分が楽器をやっていることと似ていて共感し、それ以上に解決に至る緻密な努力は凄まじいものと知りました。
そしてその発見は、肩こり・腰痛などの体の痛みに対しての解決の糸口となり、自分の職業やパフォーマンスにも活かせて、誰でもシンプルに根源的な恩恵を受けられ、何かが変化することによって、人生までも変わってしまうこともあるような深いものでした。
日本ではまだアレクサンダー・テクニークは有名ではないけれど、ジュリアード音楽院、英国王立音楽大学、ミュンヘン音楽演劇大学、他、海外では当たり前のように芸術大学で取り入れられ、有名な歌手や俳優や音楽家も学び、一部の国では医師の処方によってATのワークが医療保険でまかなわれているくらい、パフォーマンス向上の他に、ある意味治療という面でも役立っているものでもあります。
楽器を吹くときに、アレクサンダー・テクニークで何をしているの?
楽器を吹くときに、アレクサンダー・テクニークで何をしているの?ということは、私がアレクサンダー・テクニークを知って間もない頃の大きな疑問でした。
それは、妹が一人で部屋にいるなと思ったときに、そーっと気付かれないようにゆっくり近づいて、ここぞと思ったときに「わっ!」っと叫んで、妹をビックーーーッ!!!とさせて、私は「やーい、ビックリした~」と、面白がって何度も悪戯した時期がありました。
人は怖さや恐怖や急な驚きや危険などを察知すると、肩がすくみ、首が縮まり、瞬間に体を固めて全身で守りに入ります。
危険や不意の衝撃に耐えるため、もしくは、進化の過程では、瞬時に逃げられるようにするために、脳は反射的に判断し、指令通りにその体の状態を作ります。
妹がビックリして、反射的にドキーーーッっとする動きを見て、面白がっている悪い姉でした。妹よ、ごめんなさい。
『頭を動けるようにして、体全部がついてくる』
アレクサンダー・テクニークでの体の本当の使い方は、この逆です。
「首をすくめて、体を動かなく固めてしまう」
その反対というのは、
『首が楽になって、頭が前と上に、背中が長く広くなる』
『頭を動けるようにして、体全部がついてくる』
などとアレクサンダー・テクニークでは表現します。
それを楽器を吹くときに、取り入れて演奏していきます。
実験
1:試しにビックリしたようなつもりで、頭と首をすくめて縮めて、脊椎も短くなったような身体になって、深呼吸してみます。
2:ビックリした状態をやめて、頭と首が動けて、脊椎全体も長く、楽になった身体になって、深呼吸してみます。
①と②を比べると、さあ、どんな結果でしょう、と。
圧倒的に、②の頭と脊椎を緩めた状態の方が、絶対に吸いやすくなります。
①のように縮めると、息が全然入ってこない、深呼吸とさえ言えない状態になります。
頭と脊椎の関係性
あがり症である私は、悪い緊張をしているとき、例えばオーケストラの中のソロがどんどん近づいてくると、演奏するのが怖くなり、全身を緊張させて固めて、そのソロを吹いている自覚症状があります。
自覚があるくらい、ビックリする・体をリラックスさせる、緊張がある・ないという、度合いの振れ幅が大きい状況なら、誰でも当然悪い影響がありそうだと思えます。
でも、人は「わっ!」とか言われないでも、ほんの少しのストレスや、防衛的な思考や、一生懸命な動き、人間関係、長年訓練して習得した技術もしくは癖の中にも、ビックリしたときと同じように自分を固くして、危険でなくても、それに近い守りの状態を作っていることが多いと、アレクサンダー・テクニークを学んで分かってきました。
それは、ただ体全部が緊張しているのではなく、頭を守るようなすくめて縮める動きが、全身を固める働きを引き起こしています。
体を固めていないで吹いていると感じている自分の状態でも、頭と脊椎のほんの僅かなメーターの変化の度合いがあり、私たちがやっている楽器の演奏は、繊細で、はたまたシビアな絶妙なコントロールが求められる動きだから、演奏という結果に対しては、頭と脊椎の僅かな変化に、不思議なくらい大きく影響が出てきます。
自分が自分の先生になる
アレクサンダー・テクニークの先生たちは、その生徒の、繊細な頭と脊椎の状態を見抜き、変化を起こす手伝いをしてくれます。
吹奏楽部でも、音大の個人レッスンでも、オケの指揮者でも、自分の能力以上の演奏ができた体験を引き出された時には、まるで魔法を使われたようだと思っていましたが、アレクサンダー・テクニークのレッスンでは、楽器を専門にしている先生ではなくても、明らかな上達や、変化を体験をさせてくれて、こんな簡単にこんなに早く何でできてしまうの?ということが起こります。
それは、アレクサンダー・テクニークの教師資格を取るまでの、1600時間以上その使い方の訓練を受けたからこそ起こせる、れっきとしたとした教師の技術。
らしいのですが、まだまだ私には未知なる才能や能力ではないかと思ってしまうくらいです。
ただ、先生はその体験の手伝いをしてくれますが、実際のアレクサンダー・テクニークは、自らその変化を起こしていき、自分が自分の先生になるとも言える、自分が学ぶ、自分自身の再教育のテクニークです。
中一で初めて吹いた楽器が、練習を積み重ねて時間を掛けて習得して吹けるようになるのと同じように、パフォーマンスを向上させる動きや体の使い方を、自分で起こせるようになること。
「プライマリー・コントロール(初源的調整作用)」
言葉にしてみようと思ったときに、ある程度想像はついていましたが、文字になるとアレクサンダー・テクニークは伝えにくいし、きっと読み手は理解も想像もしにくいと察します。
超即効性上達法と言えるくらい、今までになく上手く吹けてしまうことがある、とても有効な演奏のツールなのに。
それは、実際の音を出さずに卓上で語っても、楽器演奏や音楽のレッスンは最後の最後に空論となるのと同じように、実際の体験と文章は非なるもので、何冊も本を読み込んでも理論を理解しても、最終的に、実際そこで奏でられる一音の素晴らしさや、直接先生から自分のためのアドバイスを受ける1レッスンには、絶対に敵いません。
アレクサンダー・テクニークも同じです。
でも、折角なので、アレクサンダー・テクニークの原理を、自分の理解の為にも、こうやって少しづつ自分なりに文章にしていこうと思っています。
今回は、アレクサンダー・テクニーク本によく書いてある、私が理解しにくかった「プライマリー・コントロール(初源的調整作用)」という一番要になるものでした。
変化のストーリーとステップ
アレクサンダー・テクニークの原理は、F.M.アレクサンダーが出なくなった声を取り戻すまでの、成功したその努力のストーリーの、1ステップ1ステップそのものです。
変化を起こすプロセスを理解すると、本当に楽器演奏(または、その人それぞれの目的や望み)の大きな助けになり、非建設的なものや悪循環というものに出会いにくくなります。
アレクサンダー自身が声を出そうとしたプロセスと同じように、あがり症の私は、ベストパフォーマンスで舞台に立てるようになるまでの、変化のストーリーを巡っている最中だと思います。
より望みの音楽をする方へ向かうため、その助けに、アレクサンダー・テクニークはかなり有効です。
そこに向かえるかどうかの成功するかのポイントであり、私にとって本当のチャレンジになることが、アレクサンダー・テクニークの原理の二つ目、抑制(インヒビション)です。
今までと同じ一歩を踏み出してしまいそうなとき、違う一歩を踏み出して行く。
簡単に思えるのに、沢山の落とし穴や、トリックや、罠が隠されています。
次回はそれをテーマにブログで書いてみたいと思います。
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