『本番でやりたい音楽をもっと表現したい。』という希望により、そのレッスンは始まりました。本番でなければ起こらない、演奏、臨場感、空気の質、研ぎ澄まされた音色や響きがあります。リハーサルとは次元が違う何かが存在している舞台。そこで大切にしたい2つの言葉を、BodyChanceの教師養成コースのレッスンで共有しました。周りで聴講している生徒は音楽家同士であるからこそ、こんな風に授業が展開される。私はここの学校が大好きです。
クラリネット奏者、アレクサンダー・テクニーク教師 宮前和美
アレクサンダー・テクニークの授業開始。
今日、BodyChanceの教師養成コースの授業でした。
そこでの一コマです。
『本番でやりたい音楽をもっと表現したい。だからここで本番のシュミレーションして吹くので、それに対してアドバイスしてほしいです。』
そんなフルート奏者の希望で、授業は始まりました。
やりたいことを自分で決める。
授業と言っても、通常想像する講義ものとは全く違います。
この学校では、一人一人が自由に過ごし、発言し、やりたいことを先生にアドバイスをもらう時間です。
誰かは楽器を、誰かは歌を、誰かはヨガをみてもらう。
それをみんなで見ながら、レッスンで起こったことを、自分に還元して学んで、生かしていく時間。
私はこの学校方針と教育方法(というほど固苦しいものではないのですが)が大好きです。
本番をシュミレーションしながらという希望がありましたが、それは門下発表会とも、おさらい会とも、本番を想定してノーミスで先生の前で吹こうとするレッスンとも、全然違います。
生徒がやりたいことを、やりたいと言い、自分でレッスンを進めていく。
本番シュミレーション。
生徒の望みである、本番のシュミレーションを最大限、この場で近づけるために、今日の授業を担当していたアレクサンダー・テクニーク先生(ドラム専門のUSK先生)は、生徒にブラインドの奥の部屋に一旦姿を隠れてもらって、しばらく時間をおいて、その後おもむろにみんなの前に出てきて、拍手をもらい、演奏をするように提案しました。
アレクサンダー・テクニークの先生は、生徒の望みに沿っていきます。
そうやって演奏をすると、やはりプレーヤーは本番のアドレナリンが出てきて、みんなの前に立って演奏することが、いつもと違うものになりました。
では、この本番と同じようなこの状況で、
「やりたい音楽をもっと表現したい。」
「それを実現するためにはどうしたらいいんだろう。」
それに対して、USK先生のアドバイスはこんな風に始まりました。
先生のこのアドバイスの真意はなんだろう??
「といっても、本番にやりたい音楽を出そうとするのってどうなんだろう?やりたい音楽をやろうとするのは、練習中にやっておいてほしい。本番中は、それを出せるような自分の状況や身体にしていこう。」
その言葉に、一瞬面食らいました。
言いたいことが、わかるようでわからなかったからです。
アレクサンダー・テクニークのアイディアを元に、本番でベストなコンディションをつくることに、神経を使いたいのはわかる。
でも練習だって、いつだってやりたい音楽をやるために、演奏するという原理があるように私は思うけれど?
今の言葉だと、本番ではやりたい音楽をしなくてもよくて、練習の時だけやっておくもの、というようにも聞こえる。
どういう意味?
次の言葉を待ちました。
演奏のスペース。
「例えばアスリートが、大会やオリンピックのその大舞台で、今まで自分が一度も出したことのない『新記録』を更新したり、得点を出したりすることあるよね。でも、それって練習中に新記録ってあまり出ないんじゃないかな。試合や大会では訓練通りだけではなく、いつもと違う何かが発揮される余地を許しているから、それは起こると思う。」
「言ってみれば演奏者も同じで、本番で用意してきたものだけやろうとしていると、それ以外のことが起こる余地がなくなる。練習でやりたい音楽をやるための練習をしておいて、本番中は練習してきた自分ヨロシク、というようなモードでいれるようにして、本番にしか出ないものに対してスペースを持って演奏したい。」
なるほど!
確かに。
本番は、いつもと違うなにかが起こる場所。
本番じゃなければ起こらない演奏や、その場の高まる臨場感、いつもと違う空気の質、研ぎ澄まされた音色や響きが、必ずあります。
先日の吹奏楽の本番で、リハーサルにはなかった、その舞台で起こっていた何事かの肌感覚が蘇ってきました。
次元が違う何かが存在しているのを、吹いていてずっと感じていました。
自分も本番スイッチみたいなものが入り、当然いつもと違うけれど、周りのプレーヤーだって演奏家として、その場にパフォーマンスのベストを尽くしてそこに来る。
それに対応するには、練習でやろうとしていた音楽や技術の枠の中に留まっていたら、一瞬一瞬対応する瞬発力みたいなものがきっと間に合わないし、想定内の枠にとらわれているとエネルギーのレンジも合わなくなる。
絶対そうだ。
『演奏にスペースを作ること』の明確な意図を持ったことはなかったけれど、事実そうしているんだと思いました。
今度演奏のスペースがあることを意図して、それを実行できるようなプランに重きをおいて舞台に立つことにしたら、絶対に違うだろうということも予想できました。
オープンな思考と場所、それにより起こる学び。
そんな風に、音楽家のコアな部分を、このレッスンを通して取り上げた授業でした。
解き明かされない、企業秘密のような、極意や信念や意図が、音楽家には少なからずあります。
普段触れることさえできないし、感覚的でもあるし、師弟関係でさえ殆ど開示されないものなのに、そんな話をお酒の力を借りずに(笑)しているなんて!
生徒が必要でやりたいこと、知りたいことであれば、ここでは本気で学んでいけます。
『スペース』に含まれること。
『スペース』という言葉は、アレクサンダー・テクニークのレッスンで、時々聞く言葉です。
身体の関節にスペースがあるようにとか、腕の空間にスペースをつくるとか、行動の選択をするため時間のスペースをつくるとか。
でも今回聞いた、『演奏にスペースをつくる』という言葉に対してのクラスの理解は、その全てを包括しているようでした。
きっと先生がドラムで音楽に携わり、生徒がフルートを演奏し、授業に参加した人たちがそれぞれ音楽をする人たちで、私も音楽家だからという、この授業での化学反応だと思います。
大切にしたい2つの言葉。
始めに書いたように、この授業は講義ではないので、板書すべきことは全くないのですが、毎回授業では、心に響いたことや大切に思ったことなどを、ノートに書き取っている人が多くいます。
今日の授業で、そのペン先が多く走ったのは、きっと次の2つだったと思います。
USK先生がパッと口に出していた『練習してきた俺よろしくモード』と『演奏のスペース』。
つまり、
1、やりたい音楽をやれるようにしておく緻密な練習を積んだ自分の存在と、
2、本番でそれを信頼し、「よ!任せたよ、オレ!」と言ってしまえるような自分のモード。
3、そして、舞台で音楽をすることの本質にある、練習以外のものが起こるための『演奏のスペース』。
『演奏のスペース』をつくるために、『練習してきた俺よろしくモード』になっておく。
この2つの言葉、今後大切にしていきたいと思います♪
【執筆】
クラリネット奏者、アレクサンダー・テクニーク教師
宮前和美(みやまえかずみ)
【プロフィール】
国立音楽大学音楽学部器楽学科クラリネット専攻卒業。クラリネットを武田忠善氏ほかに師事。2013年秋よりアレクサンダー・テクニークをバジル・クリッツァー氏ほかに学び、各セミナーでアシスタントを務める。現在演奏活動のかたわら、2017年5月アレクサンダー・テクニーク教師正式資格取得。日本国内在住のクラリネット奏者でアレクサンダー・テクニーク教師誕生。
【レッスン動画】
「え?こんなに楽に演奏できてイイの?」がテーマになっている、トランペット奏者とのアレクサンダー・テクニークのレッスン動画です。
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わたしは音楽をする人ではありませんが、スペースって何においても、特に人間関係においては大切にしたいと思っています。相手を尊重することから生まれるスペースがあると関係はより心地よくなっていくのではないかな。 USKさんとの授業でみんなが学んだことは アレクサンダーテクニックのティーチングにも応用出来そうですね。
妙子さん♪
コメントありがとうございます!
確かに人間関係にも「スペース」って考えてみると色々考えられることがありますね!
なんて深い言葉でしょう…(笑)
教師と生徒との間の「スペース」。
余裕のようにも感じるし、相手を尊重して学びを共有しているようにも感じますー♪